kydhp49’s diary

健康や幸福の香り漂う、ホロ苦「こころのホット・ココア」をどうぞ!

<22> アメリカ合衆国、道場破り滞在記

 思い返せば、10年ごとに研究環境をがらりと変えてきた。その変貌はそのときどきで違うが、とにかく10年以上の単調な繰り返しを厭う体質のようだ。

 あるときは、研究の対象を乳幼児から児童青年に変え、またあるときは、日本という研究環境を変え、アメリカに1年の居を構えた。中でも大きな変化であったアメリカの滞在について、今回は書かねばなるまい。それは、私の研究基盤を塗り替えるほどの経験であった。

 日本からアメリカに行くとあらば、何かを学びに行くというのがお決まりのコースであろう。しかし、私の場合はそうではない。道場破りまがいの滞在を望み、計画した。道場破りと言えば聞こえは悪いが、きわめて紳士的な行為ではあった。つまり、私がそれまでに日本で開発した、子どもの健康と適応を守る教育プログラムをひっさげての渡米である。具体的に言えば、暴力予防とうつ病予防プログラムのご披露である。この手のプログラムでは本場と言えるアメリカの地で、あちらの研究者や教育者を向こうに回し、日本発のオリジナルプログラムが本場で通用するかどうかを、実地で確かめてみようという、大それた挑戦であった。

 具体的な道場を決めて出かけたわけではない。およその目星は日本でつけたが、実際は渡米後、アメリカの各地を縦横無尽に巡る飛び込みである。「たのもう!」の一声に答えてくれた大学や研究所は数多く、おかけで首尾良く目的を達成できた。さすがに、異質なものを飲み込むアメリカ人気質のありがたさであった。心からの感謝を捧げたい。
 
 勝敗の行方は、痛み分けであった。こちらのプログラムの方が遙かに良いところもあれば、あちらの方が俄然良いところもあった。あちらがうなれば、こちらもうなる。その結果、自然と双方が良さを吸収することになり、こちらのプログラムも急成長した。

 その成長の証が、帰国後に予算と人力を存分に注いで完成に至った、新生の予防教育プログラムであった。それが今、全国普及の途に就いている。歩みは決して速くはないが、着実に浸透している。また、浸透しながら発展を重ねている。その進展は、現在第3世代へと進化を遂げているのだ。

 ミシガン州の大学に拠点を置きながら、ニューヨーク、コロラドオハイオ、カリフォルニアと各地を回った。まるでドサ回りのような生活であった。ほんの数人の聴衆から、百名ほどの聴衆までいろいろであったが、とにかくがむしゃらに発信してきた。

 しかし、今思えば、それほどしんどい旅ではなかったな。マイルハイシティのデンバーで橋の欄干から時を忘れてみたロッキーの透き通るような山並み、近代都市シカゴから見たミシガン湖の海のように波打つ湖面、ニューヨークの9/10のテロ跡に見た世界の混迷 ― いずれも、ストレスに満ちた道場破りの活動に深い彩りをもたせてくれた第一級の思い出だ。また、ストイックな生活を貫いたことも忘れられない。なにせ、単身渡米の身では病気一つできないのだ。原則朝昼晩は自炊、夕刻の運動は欠かさず、生活習慣満点の生き方はあのときに培われたようだ。 まさに環境は人を育てる。

 しかし、さすが心理学の本場である。その懐の深いアメリカ合衆国研究史と研究者魂は、私に多くのことを教えてくれた。今の歩みの一歩、一歩は、その教えに支えられた歩みに違いない。そのことを忘れずにいる自分だからこそ、今もなお第一線に立っている。ふと感じる、ささやかな矜恃である。